ぼのすのVR研究室

知識も何ももたない学生がフルダイブVRを本気で目指す話

フルダイブの現状②

感覚情報の書き込み(Input)について

 

さて、今回も前回に引き続きフルダイブVRに必要な工程についてまとめていきます。

 

前回は仮想体を動かすために必要な工程でしたが、今回は仮想体に生じた変化や刺激を、感覚として実体に送る工程です。

 

ちなみに感覚とは、ある物理的エネルギーに対し、特定の細胞が特定の反応を示す事で脳にそれを感知させるシステムの事です。

 

 

 

では、感覚には具体的にどんなものがあるのでしょうか。

一般的に皆さんが思いつくのは視・聴・嗅・味・触覚...いわゆる五感くらいでしょうか。しかし、これらは数ある"感覚"の中でも極一部でしかないのです。

 

まずは、感覚の種類について紹介します。

 

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実は、感覚の種類やその区分には色々な説があったりするのですが、大体は上の図にある通りです。

順を追って説明しましょう。

 

まず感覚は、大きく分けて次の3つのグループに分けられると考えられています。

 

1.特殊感覚

眼球や鼻、耳などの器官(多数の細胞の集まり=組織、の集まり)で感じる感覚の総称です。よく五感としてまとめられる"触覚”は外れていますが、代わりに平衡感覚(バランス)が入れられています。

 

2.体性感覚

大きく分けて表面感覚と深部感覚の2種類があります。表面感覚には、物の感触や硬さ、温度や体表面の痛みを感じるものがあり、体表に無数に分布している感覚細胞(刺激を感知する細胞で、各感覚器官でそれぞれの刺激に対応した独自の細胞を持つ)によって感知されます。

 

深部感覚については、実感のわかない人も多いかもしれません。簡単に言うと、自分の体の各部分の位置や運動を感知する感覚です。これらは、関節などの動きや状態から感知されていて、体にかかる抵抗や重力などもこの感覚によって感知されています。

3.内臓感覚

内臓感覚とは、文字どおり内臓で発生する感覚の総称で、内臓の痛みや空腹感、便意から性欲まで含みます。これらは、内臓内環境の化学物質の濃度などの変化を受容する細胞によって生じます。

 

では次に、もしこれらの感覚がなくなったらどうなるのか考えてみます。

 

特殊感覚...目が見えなかったり、耳が聞こえなかったりします。一大事ですね。

表面感覚...物に触れてる事に気づきませんから、いつのまにか怪我をしていたり火傷をしてしまっているかもしれません。

深部感覚...目を瞑って手を合わせてみてください。これが出来なくなります。また、まともに歩く事も出来ないでしょうし、握手をした相手の手を握りつぶしてしまうかもしれません。

内臓感覚...気付いた時にはおもらしをしていたなんて事もあるかもしれません。

 

 

さて、この中で、フルダイブをするにあたって機械側で再現して、体に Input しなければならない感覚は何でしょうか。

 

特殊感覚体性感覚(表面感覚・深部感覚)ですね。内臓感覚に関しては、むしろ実体の情報を伝えてあげないと、フルダイブ中に色々と事故が発生する危険があります。

 

 

我々が再現すべきは、特殊感覚と体性感覚の2種類です。

 

 

 

では現状、これらの感覚を再現する技術はあるのでしょうか?

 

まずは特殊感覚から調べていきましょう。

感覚を再現するにあたって理想的なのは、神経や脳を直接刺激する事ですが、特殊感覚に限っては違ったアプローチが主流となっています。実際にその物理的刺激を発生させる方式です。

 

今のVR技術がまさにその代表例と言えるでしょう。視界いっぱいを覆うディスプレイに、視界と同じような映像を映す事で、視覚という感覚を再現していますよね。ヘッドホンによる立体音響も同じように、直接耳を刺激する事で聴覚を再現しています。

 

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神経や脳を刺激する方法だと、明確な情報を伝える事はまだできないようです。

しかし、神経(感覚細胞)を刺激する技術も注目されつつあります。Samsung が以前発表した、現在開発中のVR用デバイス "Entrim 4D"にも使用されているGVS(ガルバニック前提刺激)と呼ばれる技術などです。

 

この技術(GVS)は、装着者の内耳(耳の奥にある、平衡感覚を司る感覚器官のある場所)に微弱な電気を流し、感覚細胞を刺激する事で、脳が感じる重力や体の回転などの情報を操作する技術です。実際に Entrim 4D を着けた場合、遠心力や落下感を感じることができるそうです。

 

 

 

では、体性感覚についてはどうでしょう?

表面感覚については、グローブなどを通して皮膚そのものを刺激する方式が試みられていますが、温度や感触の再現がまだまだ難しいようです。また、特定の筋肉に電気刺激を与え、収縮させることで指などを引っ張り、擬似的に触覚を再現しようとする、擬似力触覚といった技術もあります。

 

深部感覚は残念ながら、電気刺激を与える事で狂わせる事は出来るようですが、意のままの情報として入力をする事は成功していないようです。深部感覚は体の各部の位置や角度を感知するもので、それはそれぞれの関節や筋で行われると説明しましたが、そうなると深部感覚の入力はその対象が無数に存在する事になってしまいます。道のりは遠そうです。

 

しかし深部感覚に関しては、もし将来、脳への情報入力が可能な時代になったら、入力先は脳の体性感覚野に限定されるでしょう。体の各部位の位置などは、VR空間上なら相対的な位置座標として情報を送ればいいでしょうし、そうなると案外楽になるのかもしれませんね。

 

 

 

 

 

このようにまとめてみますと、やはり脳や神経への Input 技術はまだまだ研究の始まったばかりの分野で、発展途上である事がわかります。しかし、様々な技術によって日々目まぐるしく成長していく分野でもあり、そう遠くない未来には、少なくとも感覚の面では現実に限りなく近いダイブが可能になるのではないかとも感じさせられます。

 

これら無数に存在する技術の中から、最善の組み合わせを見つけ出し、それらを一つのデバイスで再現させる事も、今後のVRハードウェアの大きな課題になるでしょう。

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