ぼのすのVR研究室

知識も何ももたない学生がフルダイブVRを本気で目指す話

フルダイブってそもそもどんな技術?

そもそも、フルダイブ技術とは具体的にどんな技術の事なのでしょうか。

 

SAOを例に見ていきましょう。

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アニメ冒頭にて、主人公(キリト)は上図のようにヘルメットタイプのVRハードウェア(ナーヴギア)を装着し、ベッドに横たわり、音声コマンドで "ダイブ"を開始します。

 

「リンク・スタート!」

 

この瞬間、キリト君の意識は現実を離れ、何やらログイン画面のような物が一時的に表示され、それが済むと・・・

 

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彼の視界には、自分の仮想体を含む別世界の光景が広がっています。視界だけではなく、彼は普段体を動かすように、仮想体を動かしていますし、その感覚も現実とは大差がないそうです。まさに、ゲームの世界に体ごと "ダイブ”した感覚ですね。

 

現在、世間一般で言うところのVRは、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)による立体映像に、HMDの動きを感知するモーションセンサーを使って頭の動きと映像の動きを連動させる技術を組み合わせる事で、映像をまるで実際の視界であるかのように見せる技術の事ですが、これはそんな次元の話ではないですね。視界以外の五感ももちろん、体の運動情報や体性感覚なんてものまで再現しているのですから、難易度が格段に高い事が分かると思います。更に言うと、ナーヴギアはHMDではなく、脳内に視界そのものを作り出しているので、視界に限ってもまだまだ追いついていません。

 

VR(仮想現実)という言葉の元々の意味を考えると分かるように、あくまで立体的な映像を映しているだけの今のVRはまだまだ未完成で、長い道のりをやっと一歩進んだ程度の技術なのですね。

 

つまりフルダイブ技術とは、五感・運動感覚・体性感覚などといった、人の意識そのものを電子空間に「フル」で「ダイブ」させる技術なのです。

 

 

 

 

 

 

ここまでは誰でも分かっている話でしょう。あくまで確認事項です。

さて本題です。では、そのフルダイブ技術を実現させるにあたって、前提となる技術にはどんなものがあるでしょうか。

私は、大きく分けて次の3つの段階に分ける事が出来ると考えています。

 

  • 脳から出力された運動情報を読み取る(Output)
  • 五感などの情報(仮想)を脳に書き込む(Input)
  • 読み取った運動情報や実体からの感覚情報を遮断する(Cut)

 

順を追って説明します。

 

Output

まず一つ目、読みとりについて。これについては言うまでもない事だと思いますが、仮想体を動かすために必要な工程ですね。普段私たちは、脳から発せられる電気信号によって体を動かしています。これは指先の細かな運動や、手首を1°だけ捻るといった動作においても変わることはなく、随意運動(意識した動き)は全て脳からの命令によって成り立っています。その電気信号を読み取って、どこの部位を動かす信号なのか解析し、仮想体におけるその部位を動かすことで、自分の体と同じように、仮想体を自由に操作する事が可能になります。現在、3つの工程の中で最も研究が進んでいる・実現化されているのはこの工程でしょう。わかりやすい例で言えば、近年目覚ましい進歩を遂げている義肢技術ですね。装着者の思い通りに、自在に動かせる義肢が開発されていますが、あれも脳(神経)を流れる電気信号(運動情報)を感知して、それに連動させた義肢を動かしています。

 

Input

次に、書き込みについてです。いわゆる、感覚を再現する工程ですね。

例えば、フルダイブした先で花を摘み取ったとしましょう。現実のあなたは花なんて持っていないし、近くにそんなものもありません。しかし仮想現実をより現実に近づけるのであれば、花の見た目はもちろん、感触や匂い、重さなんてものまで再現してあげる必要があります。そこまで再現できて、初めてあなたは "それ”をリアルな花だと認識できるのです。

実は、この3つの工程の中で、VR技術の発展という観点で最も重要なのはこの、感覚情報の再現・書き込みになります。他の2つの工程がなくても、Inputさえ完璧なら、この技術を使った映画鑑賞とか、凄い臨場感になりそうですよね。

ちなみにこれらの技術は、(脳や神経に)直接書き込む技術はまだあまり出来ていませんが、現在のVRなどはこのInputの工程を間接的に(それも視覚に限って)再現していると言えます。他の五感も同じように、直接書き込まなくても、対応する刺激を各感覚器官(目や鼻)に与える事でこの工程はクリアされるかもしれません。その場合問題となってくるのは、それぞれを刺激するためのデバイスが独立していて、それら全てを合わせると体積的にすごいことになりそうな事や、それらのデバイス間にラグが生じないように調整しなければならない事などでしょうか。

 

 

Cut

最後に、遮断です。これに関しては、研究も全く進んでいないため、おそらく現段階では一番厳しい工程ですが、フルダイブという技術の体系化にあたって、必要不可欠となります。少しわかりにくいかもしれないので、先ほどのキリト君を例に、Cutの工程がない場合起きうる問題について説明します。

キリト君は自室で「リンク・スタート」しました。この瞬間から、Inputによって、彼の視界には広大な広場が広がっています。そしてOutputによって、彼の仮想体は彼の思い通りに歩き始めます。ところが5歩程歩いたところで、彼はいきなり見えない壁にぶつかってしまい、それ以上進めなくなってしまいます。原因はわかりますね。仮想体は壁に衝突していないのに、彼が進む事が出来ないのは、彼の実体が壁に衝突してしまっているからです。この例では壁なので衝突ですみましたが、何かにつまづいたり、手を勢いよく動かしていたら何かにぶつけたり、非常に危険ですね。これが、Cutのうち運動情報を遮断する理由です。

次に感覚情報についてです。キリト君は作中、自室のベッドに横たわってダイブを開始しました。感覚情報を遮断していない場合、彼はプレイ中ずっと、背中にベッドの感触や、家の環境音、自分の部屋の匂いを感じたままになってしまいます。それにInputによって新しく入力された情報が混ざってしまったら...かなり気持ち悪そうですよね。

五感については気持ち悪いで済むかもしれませんが、それだけでは済まない感覚もあります。例えば、重力。私達は普段、目を瞑っていても地面がどちらの方向にあるかわかりますよね。これは私達の体に、重力を感知する器官があるからです。もし、この重力情報を遮断できなければ、キリト君は常に壁を歩いているような感覚になってしまうでしょう。感覚情報の遮断も不可欠な事がわかりますね。

 

 

 

 

 

 

このように、大まかな流れで見るとフルダイブの前提技術は3つとなりますが、いずれもまだ完璧とは言い難く、要研究といったところですね。

次回からは、それぞれの工程についてもっと細かい説明を加えていきます。